失われた30年を経て、令和という時代に入りました。社会は、狩猟社会(Society 1.0)から、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)へと発展してきました。そしていま、科学技術・イノベーションを総合的に社会に役立てて、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会「Society 5.0」を、目指す段階に入ってきています。
皆さんが使われているスマートフォンの背景には、クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャルなどの情報通信技術があり、これがICT業界の境界を超えて社会システム全体に、さらには人々の生活を新たなカタチに創り変えていくことでしょう。ここでスマートライフ学会をご紹介しておきます。スマートライフ学会は、2001年に日本人間工学会でモバイル人間工学部会が設置されたことが端緒となっています。当初は、カーナビゲーションを中心にヒューマンインタラクションの研究が多く展開されていました。2006年には、携帯電話を扱う社会科学系の研究者が加わり、「モバイル学会」が発足しました。モビリティを切り口とした自然科学と社会科学の複合的研究交流の場になっていきました。
そして2022年、「Society 5.0」への転換点を迎え、私たちは「スマートライフ学会」に名称変更いたしました。従前の”モバイル”という問題意識では捉えきれない、この変化の潮流を”スマートライフ”という観点から捉えてみようという挑戦的な試みとなります。
スマートライフという観点で社会の変化を捉える試みには、2つの点で困難を伴うでしょう。そのひとつは、社会の変化が急速であるがゆえに、研究が追いつくのだろうかという困難です。変化の全体像を俯瞰的に整理することも学会の重要な役割のひとつなのですが、当学会では新たな変化の兆しを取り上げ、今後の展開に思いを馳せることを尊重していきたいと考えています。
また、もうひとつ困難な点は、変化の兆し捉えるための理論や方法です。世の中には教科書的な理論と典型的な方法を持つ学会が多く存在していますが、そのような枠組みでは捉えきれない変化が起こっていくでしょう。ですが、モバイル学会の時から当学会には自然科学と社会科学の研究者および実務家が学会員となっていることから、今こそ、その多様性が活かせるチャンスであると考えています。
スマートライフ学会では、新たな学会員を歓迎すると共に変化の兆しを捉える挑戦的な取り組みを奨励します。また、多様で専門的な知見を取り交わすことで、お互いに成長する交流の場を提供していきたいと考えています。独創的で多面的な研究が展開されることで、当学会も「Society 5.0」に向かうひとつの推進力になっていくことを期待してやみません。新たな船出に際し、皆様のご協力・ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2022年10月
スマートライフ学会
初代会長 遊橋裕泰